5月連休間近に、よんどころない事情で突然一人で那須に住む娘夫婦宅へ行く話が持ち上がった。留守番兼用心棒という理由であるが、1年ぶりのこともあって、私にとっては、とても魅力的な話であったので二つ返事でオ-ケ-したのは言うまでもない。
5月3日初日はオオルリを探しに近くを散策したのだが、キビタキは見かけるもののそれもなかなか思うように撮影出来なかった。それで次の日は下の方にある滝の方へ行ってみようということでてくてくと歩きだしたのだが、カメラは重たいし40分ほど行ったところで疲れてきて、戻ることにした。帰りは当然緩やかな登りになるのだが、最初の内はあたりをキョロキョロ見ては鳥の声を追っかけながら元気に歩いていた。しかし、20分も歩いたら息が切れてしまって、「弱くなっちまったもんだ。全くなさけないな-」とブツブツ言う始末。
重くなった足を引きずるようにしてうつむき加減で歩いていたのだが、何気なくちょこっと目を上げた時に4~5m先の道端の湿った土肌が目に入った。その脇の一点にオレンジ色をした物体らしきものがあって、それが目に飛び込んできたのだ。見慣れない色なので一瞬体が固まってしまったが、落ち着いて目をこらしてしっかりとその物体を見てみると、それは紛れもなくシャンパンバ-ドの「コマドリ」であった。逃げないことを祈りつつ静かにしずかにソロリソロリと後ずさりしながらカメラを構えて写しまくった。道端からヤブのなかへ移動した時ももう無我夢中で追っかけながら写しまくった。岩の上に止まった所も三脚を使い、写し取った。
その間40分程、我を忘れてヤブの中をガサガサ音をたてて追いかけても逃げずにつき合ってくれたコマドリ。それはあっという間のことではあったが幸運な時間であった。この場所でコマドリを見るとはまったく考えてもいなかったし、それはそれは夢のような出来事であった。その晩はもちろんワインで乾杯!。
※注釈 シャンパンバ-ドとは鳥の世界でコマドリほど姿を見せてくれない鳥はいないということで、ヨ-ロッパではシャンパンで乾杯する価値のある鳥なのだそうであります。